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実録ドキュメンタリー小説

「荒唐無稽裁判」

この話は現在進行形の実話です(名前や場所などは仮名です)。

お知らせ

連載第4話「普通のおばちゃんが裁判を始める時の巻」

「裁判」。それは普通のおばちゃんには縁が無いことで、まさに普通のおばちゃんの典型といえる和枝にとっても、それは同じでどこか他人事というか、本当に自分の裁判なのだと思えないところがあった。

例えば、依頼する弁護士さんがいる法律事務所に行った時のことである。その法律事務所は、見た目も立派でかっこいいビルの中にあり、エレベーターから降りると目の前には、山上法律事務所と書かれている銀色のプレートのドアがあった。重いドアを開け中に入ると、受付の女性が礼儀正しく挨拶してくれて、少し緊張が解けた気がした。。。

そんな感じになるはずだったが・・・、その法律事務所があるビルは、いつも行っている図書館のある行き慣れたビルの中にありました(笑)。乗り慣れたエレベーターで3階にある法律事務所にスムーズに着いてしまうという緊張感の無さでした。

そんないつもの普通の感じのテンションのままドアをノックしたら、受付の女性の事務員さんが出迎えてくれました。長テーブルと椅子があるだけの取り立てて飾り気のない部屋に通されました。一人で座って待っている時も、何をどう話せばよいかなと、頭で考えを巡らしていました。

暫くすると、アラフォーの男性弁護士さんが現れ、小林ですよろしくお願いしますと、大きな体を縮めるように挨拶されました。弁護士さんというと頭が賢いガリベンのインテリでというイメージがありますが、この弁護士さんは、背が高く体もしっかりしていて、頼り甲斐があるような安心感がありました。実際に話を始めても柔らかい口調で、ほとんど緊張せずに素の自分で話すことができました。

 

まずは、お互いに簡単な自己紹介をし、大まかに経緯を説明し、まあ大まかにといっても根がおばちゃんですし、ほとんど緊張をしていなかったため、素が出てしまい、今思い返せば、いつもの趣味の俳句サークル仲間に、なんだかんだ根掘り葉掘り話すような口調で、あったことを最初からいちいち話していました。

 

和枝が弁護士に最初に言ったこと・・・
それは、80才になろうかという男、おじいさんが、5才年下の隣家の女性を訴えるなんて非常識だということ。。。いきなり感情論。。。小林弁護士さんの苦労はこの時から始まったといえる。


和枝は普通のおばちゃんである。しかも高齢者。話す時は理屈ではなく感情論になるのである。あんなやり方は有り得ないとか、あの人はもともと嫌な人だったとか、だいたい近所の人間にも養鶏場の鳥の鳴き声で迷惑をかけても平気な人間だとか、そんなことのオンパレードである。

 

しかし、そこは弁護士さんはプロである。そんなおばちゃんの本領発揮の感情トークを、口はあえて挟まず頷きながら聞き、ひと段落するまで聞き終える。クライアントの感情を無視して、法律的理屈だけの話にできないのが現実だとよくわかっているので、とにかく小林弁護士は和枝の話が一段落つくのを気長に待った。

 

やっとのことで和枝の話しが一段落したところで小林弁護は、事前情報と直接聞いた内容も含めて、今回の裁判は典型的な「土地の時効取得が争点」となるケースだと、思っていた通りだと思った。そのぐらい、この「土地の時効取得」による争いによる裁判は起こっているのである。

 

一般人は全く知らないが、他人に貸している土地が、自分の物ではなくなる法律があるのである。今回、和枝は父親が亡くなって以降、何十年も土地の固定資産税を払い続けている。土地の登記簿の名義も自分の父親であって、貸している相手ではない。それでも貸しているということが証明できる契約書などの証拠が無い場合、土地は借りて使っている人間が、この土地は自分の物だと思うと主張すると、その土地は、なんと!その借りている人間の物、つまり借り物ではなく所有物になってしまうのである。

 

「民法162条1項により、原則として、土地や不動産の占有を20年間継続したこと を立証する必要があります。これを“長期取得時効“といいます。ただし、占有 開始時に善意かつ無過失であると認められた場合は、占有継続期間を10年まで 短縮できます。これを“短期取得時効“といいます。」

 

 分かりやすく言うと、たとえ最初から悪意でその土地を使っていたとしても、誰にも咎められず平穏無事に、そして周りのものに対して公然と使用できたら、その土地は自分のものになるという法律なのである。
 
 もっと簡単な極端な例をあげると、例えば、勝手に空き家に住み着いて、近所の人と仲良くなって、それで10年あるいは20年、平穏無事に生活をしたら、その家は、その勝手に住み着いた人間の家にできるんです!

 

まだ分かりにくいと思うので、次回は実例をあげて説明します。実は、日本全国で同じように、普通の人が善意で貸していた土地をとられているというケースが多発しているのです。

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